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01_4 歓送迎会 樹side

last update Last Updated: 2025-05-01 05:08:50

……ん。

なんか姫乃さんが人気あるのが分かった気がした。

この人、悪意がないし雰囲気がとてつもなく柔らかい。包み込まれるような感覚に飲み込まれそうになって、はっと我に返った。

「いやー、いいよね。姫ちゃんのその笑顔、癒しだったなぁ」

早田さんがしみじみと言った。

確かに癒しだ。なんだこれ、世の中にはこんな人がいるんだな。こんな、その場にいるだけで穏やかな雰囲気になる人が。

不思議な気持ちに、姫乃さんを不自然にならないようにチラチラと観察した。

彼女は積極的に話をするタイプではない。皆の話をニコニコしながら聞いて、相槌をうっている。話を振られれば、柔らかく穏やかな声音で話をする。

だけどひとつだけ。彼氏の話を振られるととたんに慌てだす。照れているのかと思っていたけれど、なんか違和感。何かを言いたそうで言えない感じ。そこを本橋さんと近田さんが畳みかけていくので、姫乃さんは困ったように笑う。

ふと、目が合った。

何でもないようにニコッと微笑まれる。

「ビールおかわりする?」

「あ、じゃあ。どうも」

遠慮なくグラスを差し出した。トクトクと注がれるビール。隣のテーブルからの視線も、ちょっとばかり痛い。姫乃さんからの二回目のお酌。

「大野くんって飲んでもあまり変わらないんだね」

「あー、うーん。多少酔ってるとは思いますけど」

「そうなんだ。羨ましい」

「そうですか? 姫乃さんは飲まないんですか?」

グラスを見れば半分ほどしか減っていない。これが何杯目かは知らないけど。

「私は酔うと大変なことになるから飲まないようにしてるの」

内緒だよ、とこっそり教えてくれる。

え、なにそれ。内緒なの? 俺に教えていいわけ?

あざといな。うん、あざとい。

だけどこの人、計算してないだろ。自然体だろ。むしろ天然か。

真相はわからないけど、そう思うくらいに姫乃さんは自然。

自然すぎて思わずドキッとしてしまう。

あー、なるほど。これも人気の秘訣か。

俺も今、可愛いなって思ってしまった。

一緒の空間にいるとペースを乱されそうになる。

隣の先輩たちといるよりずっといい。すごいな、姫乃さん。

そんな気持ちがバレたのだろうか、俺は先輩たちに呼び戻された。

どうやら嫉妬されてしまったらしい。

なんでだよ。自分たちが行け行けって言ったくせに。

「いいよな、朱宮さん」

「マジ癒し。職場に癒しがいるって最高じゃね?
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